
保存科学研究室

「活用科学」―文化財の活用をすすめるための科学調査
活用が進められ、また地域社会との連携が期待されている歴史的建造物や構造物を対象に、
活用がこれらを構成する素材に及ぼす影響を自然科学的手法により明らかにする研究です。
保存科学においては、活用の前後、そして活用中における状態をモニタリングし、
適切なモニタリング方法や評価基準項目の策定などに役立てます。
※文化庁と大学・研究機関等との共同研究事業
・富岡製糸場
・牛久シャトー
・京都文化博物館別館
・二条城
・石見銀山 など

レンガ、石、木、コンクリート、土からなる建造物・遺跡の保存
社会基盤や生活様式の変化や、経済の発展などの影響が遺跡のすぐそばまで及びつつあり、これまでの遺跡の保護手法では対応できなくなってきています。
保存科学では遺産の素材を探り、その劣化のメカニズムを自然科学的な視点から把握し、
遺産のオーセンティシティーを遵守しつつ保存することを念頭におきながら、
劣化の抑制と予防のための調査・計画・処置などを行います。
・アンコール遺跡バイヨン寺院での浮き彫りの保存
・戦史関連遺跡の保存
・東京湾要塞遺跡レンガ、コンクリートの保存
・駿府城石垣、道の遺構の保存処理
・古墳石室の保存

被災施設、被災史料の保全
被災資料は通常に起こる劣化ではなく火災や浸水などの被害を受け、
その物性が著しく変化した状態にあります。
このような資料の保存理論は確立されておらず、
具体的な保存管理や活用計画が立てられないのが現状です。
この研究は保存科学、博物館環境学、木質科学、博物館学、環境微生物学、資料保存学、建築環境学、
歴史学などの各分野の専門家を中心に進められています。
保存科学の場合、災害の種類・レスキューの方法・安定化技術・管理方法などの観点から
被災資料の収蔵・保管・活用の現状を整理し、
被災資料の物性データを自然科学調査から明らかにすることが目的です。
被災遺構についても経年による劣化傾向を把握した上で、その特徴に合わせた被災資料の改質と、
安全な収蔵環境・展示空間を創出する方法を模索しています。
従来の文化財保存の手法を発展させた“被災資料に特化したあらたな資料保存”の基準を確立する研究です。
・石巻市門脇小学校、旧湊二小
・鯨と海の科学館
・とみおかアーカイブミュージアム

展示環境、保管環境の維持と改質
博物館や資料館、美術館などで収集される前の資料には、それぞれの劣化はありますが、
空間的に隔てられた他のモノに影響を及ぼすことはありません。
ところが、それらが博物館などに集められると、ある資料の劣化が他の資料にも影響し、
本来受けるはずのなかった劣化を被ることがあります。その被害は甚大となります。
環境の中でも温度や湿度は長期的に影響を及ぼす因子として重要視されており、
近年ほとんどの場所で計測されモニタリングされています。
しかし、空気質汚染をはじめとした中期的な要因による劣化は、
損傷は症状が目に見えていても、原因の特定には時間がかかり、
専門的な分析調査が必要になる場合もあります。
保存科学の視点からは、展示空間や収蔵空間の計測技術や改質方法などの提案を行っています。
加えて、保管などに用いられる資材の評価も実施しています。